俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
慌てる様子もなく淡々と行動に移していく姿はさすが医者だ。こういった不測の事態の対応には慣れているのだろう。
というよりも、普段はもっと過酷な場に身を置いているのだから、お風呂に入ってのぼせた私の介抱などなんてことないはず。
横になっている私の足を持ち上げて、その下に枕を置いた早瀬先生は、水で濡らしたタオルを私の頭の上に置いて冷やす。それからどこかへ向かい、戻ってきた彼の手にはペットボトルがあった。おそらく備え付けの冷蔵庫に入っていたものだろう。
ベッドの縁に腰を下ろした早瀬先生が、仰向けに寝ている私にうちわの風を送ってくれる。
「とりあえず体を冷やして水分補給。そのうち良くなる」
「すみません、早瀬先生。迷惑をかけて。私のことはいいので、露天風呂に入ってきてください」
私がのぼせて倒れたりなんかしたから……。こんなことになるなら、やっぱり早瀬先生に先に入ってもらえばよかった。
「アホかお前。この状態のお前を残して呑気に湯に浸かれるか」
ムッとしたような表情を浮かべた早瀬先生が私を見下ろす。
もしかして心配してくれているのだろうか。
でもそれは私だからという特別な理由からではなくて、彼は医者だから倒れている人間を放ってはおけないのだろう。