俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
「さっき、考え事をしていたって言ってたよな」
ふと早瀬先生が口を開いた。
「なにを考えていたんだ」
くっきりとした彼の二重の目が私の顔を見つめる。
「もしかしてお前の実家に結婚の挨拶に行ったとき、あの父親から言われたことを気にしているのか」
「えっ……」
早瀬先生の顔を見つめ返す。
父親から言われたこととは〝出来が悪い〟や〝落ちこぼれ〟といった言葉のことを指しているのだろうか。それを気にしていた私が露天風呂の中でつい考え込んでしまってのぼせたと早瀬先生は思っているのかもしれない。
「大丈夫です。ああいう風に言われるのは子供の頃から慣れているので」
もう散々言われ続けてきた言葉だ。それに、父の言う通り私は出来損ないの落ちこぼれだから。
「だから早瀬先生も、父に言い返してくださらなくてよかったんですよ」
力なく笑ってみせれば、早瀬先生の表情がふと強張り、うちわを仰ぐ手も止まった。
「そんなものに慣れるな」
ぼそっと彼が呟く。