俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
もうすぐ定時を迎える頃になり、看護師さんから届けてもらいたいものがあると書類を預かる。
少し前に退院をして、今は通院を続けているこうたくんのことで、心臓血管外科病棟の小児チームの医師に渡してほしいそうだ。
別棟にある心臓血管外科病棟に向かえば、小児科病棟とは雰囲気ががらりと変わる。
郡司総合病院の心臓血管外科には他の病院では治すことができないような難しいオペを控えている患者が多く入院しているため、小児科病棟とはまた違った緊張感が漂っていた。
医局に入ると小児チームの医師を見つけて、預かった書類を手渡す。無意識に早瀬先生の姿を探してしまったけれど、ここにはいないようだ。
用事を済ませてから退室をして、病室が並ぶ廊下を移動しているとなにやら視線を感じた。ちらっとそちらを見ると、職員食堂で私のことを噂していた看護師のひとりと目が合う。
ものすごく睨まれている……。
こわくて慌てて視線を逸らす。早くここから立ち去ろうと思い、歩くペースを速めたとき、「芙美」とどこからか名前を呼ばれた。
振り返ると、スクラブの上から白衣を羽織った早瀬先生がこちらに向かって歩いてくる。
「珍しいな。お前がうちの病棟に来るの」
目の前で足を止めた彼は、白衣のポケットに両手を突っ込みながら不思議そうに私を見た。