俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない

「小児チームの先生に渡してほしいものがあると看護師さんから頼まれたので」
「お遣いに来たのか。遠くまでご苦労さん」

早瀬先生が白衣のポケットから手を出して、私の頭にポンと乗せる。すぐに離れて、その手は再びポケットに戻った。

職場での突然のスキンシップに私の体は固まってしまう。こんなところを誰かに見られたら……と思ったところで、先ほどの看護師さんの存在を思い出した。

もしもまだ同じ場所にいるなら、早瀬先生とのさっきのやり取りを見ていたかもしれない。

彼女は私が早瀬先生と結婚したことをよく思っていないので、もしかしたらまた睨んでいるかも……。そう思うとこわくてそちらを見られない。

体を強張らせてビクビクしていると、六十代ぐらいの女性患者がこちらに向かってゆっくりと歩いてくるのが見えた。

「あら、早瀬先生。見掛けない事務の子と一緒にいるわね」

私たちのところまで来た女性は、にこにこと微笑みながら私のことをじっと見てくる。その視線がふと胸元のネームプレートに向かった気がした。

女性がパッと顔を上げて早瀬先生を見る。

「あらまぁ同じ名字じゃない。もしかして最近結婚した奥さんかしら」

それに対して早瀬先生が口元に笑みを浮かべながら答える。
< 67 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop