俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
「お前どうして泣いてるんだ」
「えっ」
「なにかあったのか」
私の肩を掴んで顔を覗き込んでくる早瀬先生の表情は険しい。彼は一瞬だけ私から視線を逸らし、どこか言いづらそうに口を開く。
「もしかして今日うちの病棟に来たとき、看護師たちになにか言われたのか。それとも噂を聞いたか」
「噂?」
きょとんと首を傾げると、早瀬先生が眉間に皺を寄せる。
「……お前が泣いている理由、それじゃないのか」
どうやら彼は私の涙の理由を探っているようだ。
「えっと、泣いているのは、たまねぎを切っていたからで……」
まな板の上でみじん切りになっている玉ねぎに視線を向ける。早瀬先生もそちらを見て、理解したのか再び私に視線を戻す。
「これが目に沁みたのか」
「はい。それで涙が」
「……」
早瀬先生が黙り込んでしまった。しばらくすると脱力したようにため息を吐いた。
「たまねぎのせいかよ。俺はてっきりお前がなにか悪い噂を……」
言い掛けた言葉を飲み込むようにパッと口を閉じた早瀬先生。誤魔化すように私の髪を少し乱暴にくしゃっと撫でると、手を拭くために掛けてあるタオルを手に取り、それを私の目に押しつけた。これで涙を拭けということらしい。