俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
「心配かけてすみませんでした」
早瀬先生の手からタオルを受け取ると、目に浮かぶ涙を拭いた。
帰宅早々、キッチンでぽろぽろと泣いている私を見て、きっと早瀬先生は驚いたのだろう。
「別にお前のことを心配したわけじゃない。泣いている理由が気になっただけだ」
私から視線を逸らした彼がぼそっと告げる。
「まさかたまねぎごときでここまで泣いているとは思わないだろ」
「でも、たまねぎを切っているとすごく目に沁みて痛いですよ」
「そういう成分が含まれているからな。たまねぎは切ることで細胞が破壊されて、硫化アリルが空気中に飛び出る。それが蒸発して目や鼻の粘膜を刺激するから涙が出るんだ」
「さすが早瀬先生。詳しいですね」
たまねぎを切って涙が出る理由までは知らなかったので思わず感嘆の声をあげる。そんな私をちらっと見た早瀬先生が「お前さ……」と、なにか言いたそうに口を開いたが、言わないまま口を閉じた。
「早瀬先生?」
その様子が気になり、彼の顔をまじまじと見つめる。
そういえばさっきもなにか言い掛けて不自然に口を閉じていた。確か、『俺はてっきりお前がなにか悪い噂を……』と言っていた気がする。
もしかして早瀬先生は、私の泣いている理由がたまねぎ以外にあると思ったのかもしれない。