俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない

唇をきゅっと噛みしめて、私は小さな声で口を開く。

「看護師さんたちから悪く言われているのを聞いたときは悲しかったけど、でもそういうのには慣れているというか。耐性があるのでそこまで深く傷ついたりはしません」
「耐性って、あの父親のせいか」
「はい」

子供の頃からさんざん罵られてきた。だからそういうのには慣れている。傷つきはするけれど、なるべく引きずらないように気持ちを切り替える方法を子供の頃に身に着けたから。

早瀬先生の表情は今も険しいままだ。どこか苛立つように私を見たまま、視線を逸らそうとしない。

「前にも行ったよな。そんなものに慣れるなって」
「前?」
「お前が露天風呂でのぼせて倒れたときだ」

……確かに、そんなことを言われた覚えがある。

でも、父の言うことも看護師さんたちの話していたことも事実だ。私は父の言うように出来の悪い落ちこぼれだし、看護師さんたちの言うように早瀬先生の結婚相手には相応しくない。

早瀬先生が重いため息をこぼした。

「俺も看護師たちの噂を知っていながら放置していて悪かった。俺が余計な口を出せば、お前への当たりがさらに強くなると思ってなにも言わなかった。でも今度、そういう噂はやめてもらうように言っておく」
「いえ、そんなことしていただかなくて大丈夫です」

人の噂も七十五日といわれているように、しばらくすれば私たちの結婚のことも話題にならなくなだろう。
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