俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない

「人の妻にいきなり抱きつくな」

頭の上から早瀬先生の声が聞こえた。

どうやら背後から私を抱き寄せたのは彼らしい。体が密着していることに動揺して身動きが取れなくなる。そんな私たちを呆然とした様子で見つめている陸くんの口から「……妻」と、ポロっと言葉がこぼれた。

「そうか。芙美ちゃんはもうこの男の妻なのか。人妻なのか」

視線を落としながらぼそぼそと呟く陸くん。のっそりと顔を上げると、私のすぐ後ろにいる早瀬先生を見てしょんぼりと肩を落とした。

「芙美ちゃんの旦那がこんなにイケメンだなんて聞いてない。背も高くてスタイルもいいとか、天は二物を与えずなんて嘘だろ」

吐き捨てるように告げた陸くんの言葉は止まらない。

「おまけに留学経験もある優秀な外科医。そんな男に、顔もスタイルもそこそこの、まだ医大生の俺が勝負を挑んだところで勝てるわけないだろうが。ああ、悔しいっ!」

突然来るからどうしたのかと思えば、陸くんは早瀬先生に勝負を挑みに来たのだろうか。

医者を志す者として、現役で働いている早瀬先生と張り合いたくなったのかもしれない。なにが彼をそうさせるのかはよくわからないけれど。

「大人しく敗北を認めるよ、早瀬幸也」
「呼び捨てにするな。追い出すぞ」

背後から不穏なオーラを感じ取る。すると、空気を読めない陸くんのお腹からぐ~と情けない音が聞こえた。
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