俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
ひやひやしながら隣に座る彼に視線を向ければ、特に表情を変えることなく麦茶を飲んでいる。グラスをテーブルに置くと、陸くんを視界に入れないまま早瀬先生がゆっくりと口を開いた。
「そうだな。俺はお前みたいに繊細でもなければ、なよなようじうじもしていないから」
冷静だが言葉には棘を感じる。陸くんが早瀬先生をさらに睨みつけるように鋭い視線を送った。
「ふ、ふたりとも……」
一触即発な雰囲気に私だけがおろおろしてしまった。
***
六月も中旬に入ると、ほぼ例年通りに梅雨入りをした関東では雨の日が多くなった。
今日も朝からしとしとと降り続けていたのだが昼過ぎには止み、夕方の四時過ぎの今は雲の隙間から太陽の光が差し込んでいる。
「――芙美ちゃん」
ナースステーションでカルテの整理をしていると、回診に出ていた未華子先生が戻ってきた。
彼女の後ろからはスーツ姿の男性が一緒に歩いてくる。顔がよく見えないが、今の時間は面会に来ている親も多いので、入院中の子供の父親かなと思った。
でも、ちらっと男性の顔が見えた瞬間、私はイスから勢いよく立ち上がる。
「えっ、山之内さん⁉」
父の病院で働く呼吸器内科の医師だ。私よりも九歳上だから、未華子先生や早瀬先生の方が年齢は近い。
並んで歩いている未華子先生よりも背丈は高く細身で、さらさらの黒髪が特徴的な見た目からして穏やかな雰囲気の男性だ。