俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
その日、定時で仕事を終えた私は山之内さんが待っているカフェに向かう。
赤信号で立ち止まり、こういうときは早瀬先生に連絡を入れた方がいいのか迷った。
山之内さんと食事をするとなるとやはり帰りは遅くなるだろう。それよりも早瀬先生の方が先に帰宅をすれば、彼の帰る時間にはいつも家にいるはずの私の姿がなくて心配するかもしれない。いや、心配まではいかなくても気になるはず。
だから念のため、『知人と食事をするので帰りは遅くなります』とメッセージを送った。
病院のすぐ近くにあるカフェに向かえば、窓際の席に座っている山之内さんの姿を見つける。店内には入らずガラス越しに彼に視線を送ると、気付いてくれたようで目が合う。席を立った彼がカフェから出てきた。
「お疲れ様、芙美ちゃん」
「山之内さんもお疲れ様です。待たせてしまってすみません」
「いいよ、仕事なんだから。それよりもどこに食事に行こうか」
山之内さんが少し困ったように笑う。
「東京にはこういうときしか来ないから、店がわからないんだよな」
「それならこの近くに料理がとても美味しい居酒屋がありますよ」
「それじゃあそこにしようか」
私も普段からあまり外食をする方ではないのでお店には詳しくない。ふと以前、早瀬先生に連れてきてもらった店を思い出したので提案してみた。
前回は車で向かったけれど、徒歩でも行ける距離にある。確か、駅の近くだった。