俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
後ろを振り返ると、突然の出来事に呆気に取られたようにポカンとした表情の山之内さんと目が合った。
苦笑しつつ両手を合わせて〝ごめん〟と謝罪のポーズをしてくるので、おそらく彼も早瀬先生のことを誤解させてしまったことに気付いているのだろう。
私たちの会話のほんの一部だけを聞いた早瀬先生は、山之内さんが私の連絡先を聞こうとしたと勘違いしている。そうではなくて、山之内さんは未華子先生の連絡先が知りたかったのに。
早瀬先生に腕を引っ張られて歩きながら山之内さんを振り返り、頭を下げた。
それからすぐに早瀬先生の誤解を解こうとしたものの、彼から伝わるピリピリとした雰囲気がこわくて声を掛けられない。そのままお互いに無言のままマンションに着いてしまった。
玄関の扉を開けて中に入ったタイミングで恐る恐る声を掛ける。
「早瀬先生。どうしてあの場に……」
突然現れたのだろうか。そう言葉を続けようとしたのだが、振り返った彼がいきなり私の体を壁に追いやり、顔の横に両手をついて囲い込んだ。
「そんなことは今はどうでもいい」
高い背を屈めた早瀬先生が私の顔を覗き込んでくる。眉を寄せた彼にぎろりと睨まれて、体がピクッと跳ねた。
「いいか、芙美。お前に大事なことを教えてやる」
指の間に彼の指が差し込まれると、絡め取るように繋がれた手を後ろの壁に押し付けられる。