壊れるほどに愛さないで
プロローグ
『なぁ、スノードロップってしってる?』
『なぁに?それ、おいしいの?』
その時に、スノードロップが花だということと、初めて恋をすることを知った。
ーーーースノードロップ ヒガンバナ科・ガランサス属 まだ雪の残る2月から3月にかけて開花する。
花言葉は、『希望』そして『慰め』
白銀の世界の中、踏み締める雪の音で振り返れば、大きな掌が伸びて、私を強くだきしめる。
「美織……」
心臓の鼓動は高鳴って、舞い散る粉雪と共に、恋しい心が溢れていく。
私は、振り返れないまま、目の前の雪景色が、まあるく滲んで、雫がこぼれて落ちる。
「……雪斗……」
雪斗の腕はより強く、私を壊れそうなほどに抱きしめる。
「愛してる……美織を愛してるから」
溢れた涙は、足元に咲き乱れるスノードロップに落ちて弾けていく。
大人になってから貴方と見た、スノードロップの真っ白な花弁の雫型は、まるで私の涙みたいだった。
ーーーー心が壊れるほどに、私だけを愛して欲しくて。
でも、もう壊れるほどには愛さないでと願うように、あの日のスノードロップは、仄かに溶けていく、雪のように真っ白だった。
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