壊れるほどに愛さないで
私が、鍵をかけて階段を降りると、ちょうど雪斗の電話の声が聞こえてくる。背中を向けていている雪斗は、私には気づいていない。

「桃葉っ!」 

(ももは?)

ーーーー何だろう。変わった名前……どこかで聞いたことがあるような気がするけど、思い出せない。

(気のせいかな……)

階段を降り終わる頃には、雪斗がスマホをスラックスに仕舞い、こちらを向くと、すぐに私と目が合った。

「美織……いま、きたの?」

「あ、うん」

雪斗は、ドクターとの電話だと言っていたが、ドクターとの電話では、無さそうだった。雪斗が、どことなく気まずそうに見えるのは気のせいだろうか。

「あ……電話いま終わったから、行こっか。俺もスーツに着替えたいから、家寄らせて」

「……うん」

何となく、聞いてはいけない気がして、私は、何も言わなかった。

雪斗は、私の手を引くと、自宅アパートへと向かった。雪斗がスーツに着替える終わるのを待って、2人で営業車に乗り込むと、コンビニでおにぎりを買って、2人で車内で食べる。

「すっかり、美織も慣れたんじゃない?」

雪斗が、おかかのおにぎりを頬張りながら、目だけで笑った。

「そ、だね……すっかり助手席も抵抗なくなってきちゃったかも……」 

「あはは。ま、会社にバレたら、仲良く始末書って事で」

外は、青空が広がっていて、今日は、白い雲が多い。まるで青い絵の具の中に、真っ白い綿菓子が、ふわふわ浮いてるみたいだ。
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