壊れるほどに愛さないで
「え?」

「俺の名前も、白いもの、ついてるでしょ。雪」

ーーーーどくん、と心臓が大きく跳ねる。

雪斗の声が、重なる。あの日の、あの子に。
私は、騒ぎ出した胸元を握りしめていた。

「ぷっ、ごめん、嘘。困らないで」

「えと……」

「今は、これで充分」

雪斗は、私の頭をくしゃくしゃと撫でると、またハンドルを握った。

何だろう。
どうしてなんだろう。

雪斗と一緒にいると、忘れてしまっている(こお)った記憶が、溶け出すような感覚がする。

『……じゃあ、おれのなまえは……』

あの日見た、真っ白なスノードロップの花と共に、あの男の子の声が聞こえた気がした。
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