壊れるほどに愛さないで
俺が、美織を連れてきたのは、都内から30分程のところにある、大規模アスレチックと併設してる大型公園だ。すぐ隣にショッピングモールがあり、土日は、家族連れや、学生、カップル達で賑わっているが、今日は、平日の午前中とあって、数組の親子連れがいる程度だ。

「美織、こっち」

俺は、美織の手を取ると、指先を絡めた。美織の頬がほんのり染まって、俺は美織に気づかれないように口角を上げる。こんな風に、誰かと手を繋ぐだけで幸せだと感じることなど、3年前は、想像すらできなかった。

公園の入場口を入ると、緩やかな樹々に囲まれた坂道を登っていく。

「雪斗、この公園に、コスモス見にきたことあるの?」

俺は、一瞬返答に悩んだが、正直に美織に返事をした。

「うん、付き合っていた子と。でも4年ぶりかな。ここにコスモス見に来るのは」

「そうなんだ……」

美織は、顔に出やすい。そんな顔をしてくれるなんて、俺は、どこかで期待してしまう。いつか美織の心が、俺に向いてくれるんじゃないかって。

「美織と、どうしても、来たかったんだ」

美織が、大きな瞳で俺を見上げた。

「ほら、着いたよ」

繋いだ手をそのままに俺は、青空に向かって咲き誇る色とりどりのコスモスが、揺れる(さま)を静かに眺めた。

赤、黄色、ピンク、オレンジ、そして……白。

美野里の好きだった白いコスモス。花言葉は、純潔だったはずだ。

『白いコスモスが好きなの』

彼女が、笑ってそう言ってた声が、風に乗って何処からか聞こえてくる。
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