壊れるほどに愛さないで
「綺麗だね、笑ってるみたい」

風に巻き上げられた長い栗色の髪を耳にかけながら、美織が、瞳を細める。

「私ね、白いコスモスが好きなの」

俺に向かって、そう笑う美織が、一瞬、美野里に見えた。何も考えられないまま、俺は、気づいたら人目も憚らず、美織を抱きしめていた。

「わ……えと……雪斗?」

「俺も……白いコスモスが一番好きだよ」

強く美織を抱きしめてるせいで、俺の心臓と美織の心臓がくっついて、互いに同じ速度で音を刻む。

寄り添うように、一つに重なるように。

「……どうして……別れたの?」

俺の腕の中で、俯いたまま、聞こえてきた美織の言葉に、瞳は揺れた。


「……別れたんじゃないんだ……」


ーーーーそう、俺と美野里は、別れたんじゃない。

ただ、今そのことを美織に伝えるのは、違うような気がした。何故、美織に惹かれるのかは分からないが、美野里と美織は違うから。

だから、俺は、今を生きている美織と向かい合いたい、そう思った。

「ごめんなさい……思い出させて」

美織は、気づいたのだろう。俺の言葉の意味を。美織の切なく、か細い声を聞くと、苦しくなる。
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