壊れるほどに愛さないで
「……あのワンピース……」

おそらく、待野雪斗の部屋に泊まって、服がない美織に貸したんだろう。

シンプルな紺色のワンピースで、袖にパールが小さくついている、美野里のお気に入りのワンピースだった。

(美野里の部屋になかったのは、アイツが持ってたからか……)

でも、あのワンピースを美織に着せたということは、待野雪斗は、あの事をもう知っているということだろうか?

どこまで知っていて、美織に近づいているのだろうか?

少なくとも、美織は、まだ大事な事に気づいていない。だから、だからこそ、美織だけは、譲れない。

「今更……誰にも渡さない。美織は、僕のものだから……絶対に……」

僕は、シーチキンおにぎりを無理やり、お茶で流し込むと、エンジンかけた。

そして、父の病院へとハンドルを切った。
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