壊れるほどに愛さないで
営業車を東都大学附属病院の近くのパーキングに停めて、病院のエントランスに向かって歩いていたところで、ふいにスラックスの中のスマホが震える。表示された名前に、俺は、すぐにスワイプした。

「美織?どした?」

『あ、雪斗?ごめんなさい、まだ病院着いてない?』

電話の向こう側は、静かで、美織は事務所にいるはずなのに、電話音一つ聞こえない。

「いまエントランス向かってるとこだけど、美織、もしかして、外?」

『良かった、雪斗に頼まれてた、喘息治療薬の資料で渡し忘れたのがあって、いまタクシーで向かってるの。あと、15分位なの。間に合うといいんだけど……』

俺は、手元の時計を確認する、13時20分だ。野田医師とのアポイントには間に合う。

「大丈夫だよ、じゃあ、野田医師と医局で待ち合わせしてるから、受付でゲスト用のネームプレート貰って、俺まで届けてくれる?」

『野田、先生?』

美織が、その医師の名前を繰り返した。
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