壊れるほどに愛さないで
「こちらが、ゲスト用のネームプレートとなります。首から下げて、あちらの扉からお入りください」

「あ、ありがとうございます!」

私は、東都大学附属病院の前でタクシーを降りると、受付で、自社名の入ったネームプレートを見せ、病院のゲスト用のネームプレートを受け取り、首から下げた。

今日も相変わらず、病院の外来は、混雑している。

「えっと……医局」

医局に通じる電子錠の扉を解除してもらい、さらに関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉をもう一枚潜り抜ける。そして、受付で聞いた通り、8階でエレベーターを降りると、私は、ふと立ち止まった。目の前には、左右に広がる大きな廊下と、さらに大きめの廊下から細めの通路へと枝分かれしているのが見えた。

(しまった……医局の場所ちゃんと聞けば良かった……)

内科部長、消化器内科部長、婦人科科長、白い扉に掲げてある個室に記載されたプレートを眺めながら、キョロキョロと歩いていく。

すると、長い廊下の先から、白衣を着た院長らしき男性が、沢山の部下を引き連れて歩いてくるのが小さく見えた。軍隊のようにこちらに向かってくる白衣の集団に、すれ違う事を躊躇ってしまう程の威圧感を感じてしまう。 

(どうしよう……通路間違えた?)

私は、辺りを見渡すが、適当にやり過ごせそうな部屋もない。

「……こっちだよ」

「んんーーーーっ!」

ふいに背後から聞こえてきた、聞き覚えのある声に振り返る暇もなく、私は、口を塞がれ、非常口へと引き摺りこまれた。
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