壊れるほどに愛さないで
「んんーーーっ!」

私は、突然口を塞がれた恐怖から、手足をジタバタさせて力の限り暴れていた。

「ちょ、暴れないで。今から手、放すから。大声ださないでよ」

その言葉通り、後ろから、抑えられていた掌は私の口元から離れていく。私は、すぐに、身構えながら振り返った。

「あ、れ……?」

黒髪の短髪に、一重の瞳を更に細めると、三橋が、にこりと笑った。

「しっ……院長の回診だから、通り過ぎるまで静かにね」

私は、黙って頷くと、一応口元を掌で覆った。規則正しく響いてくる足音達は、扉を隔てた向こう側を通り過ぎると、どんどん小さくなって、やがて何も聞こえなくなった。

「……行ったね……てゆうか、美織ちゃん、製薬会社で働いてたんだ?」

「え?」

「その封筒、竹林製薬って、書いてあるし、ゲストの、ネームプレートを付けて、此処まで入ってこれるの、製薬会社の社員位だからね」

「あれ?驚いた?今日の俺、名探偵すぎだったかな?」

三橋が、おどけて、腕を組みながら宙を見るフリをした。

今の状況を理解した私は、ようやく笑った。
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