壊れるほどに愛さないで
「ふふっ、三橋さん、さすがですね。当たりです」

「お、名探偵の美織ちゃんのお墨付き貰っちゃったね」

「あげてませんよ」

私たちは、小声でクスクスと笑った。

「それにしても……院長の回診って凄いですね」

「まぁ、橘院長は、海外からも問い合わせがくる位優秀な、心臓外科医だからね」

「た、ちばな?院長?」

三橋が、目を丸くした。

「知らなかった?院長は、橘友典(たちばなとものり)院長。橘は、一文字で、樹木の橘と同じだよ。ちなみに一人息子がいて、なぜか、病院継がずに、医療機器メーカーに勤めててさ、滅多に見かけないけど、俺も一度見たことあるかな」

相変わらず病院内の事に詳しい三橋は、饒舌に話す。

「あ、そうなんですね……知らなかった」

(橘……ありふれてもいないが、珍しい苗字でもない)

私は、辛うじて平然を装ってみるが、心臓は、どんどん騒がしくなっていく。

「えっと、息子の名前、何だっけな、確か……」 

私は、大きく深呼吸しながら、三橋を見上げた。三橋の瞳を見ながら、呼吸が、浅くなってくる。最近、すぐに記憶発作を起こしそうになるのは何故だろうか。

「美織ちゃん?大丈夫?」 

看護師の三橋が、私をじっと覗き込むと、額に手を当てた。

「……熱は無さそうだな、心臓、苦しい?」

体が、思わず小さく跳ねて、私は、三橋の腕をそっと押し返した。

「あ、大丈夫です。それよりも……その院長の息子さんの名前って?」
< 154 / 301 >

この作品をシェア

pagetop