壊れるほどに愛さないで
「名前?えー……もうちょいで思い出せ……あ!友也だ!橘友也!スッキリしたわ」

(橘……友也。嘘でしょ……)

私は、口元を抑えると、廊下の床に視線を落とした。

「美織ちゃん、知ってる人?」

「私……」

「まさか恋人だったりして?な訳ないか」

「ですね……」

ケタケタと笑う三橋に、なんとか相槌をうつ。

友也は、私と付き合ってから、今まで一度も家族の事を話した事がない。

私が、この病院で心臓移植を受け、定期検診に通っている事を知っているのに、どうして父親が、院長をしている事を、友也は、ずっと私に黙っていたのだろうか。

何か知られたくない事でもあるのだろうか?

「……って、美織ちゃん、時間大丈夫?」

三橋に顔を覗き込まれて、慌てて顔を上げた。

ーーーー手元の時計は、14時10分前だ。

「あ!三橋さん、医局教えてください!」

「ん?あぁ、この扉を出たら、一旦戻ってエレベーターの手前を左手だよ、行けば分かると思う。じゃ、美織ちゃん、またね」

私は、三橋に軽く会釈をすると、すぐに雪斗の待つ医局へと向かった。
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