壊れるほどに愛さないで
ガチャリと扉が開くと、父が、驚いた顔をしている。

「友也、何だ?来るなら来ると連絡しなさい」

僕は、父がソファーに腰を下ろしたのを確認してから、真向かいに座る。

父は、手元のレントゲン資料をガラステーブルに置いてから、僕と視線を合わせた。

「お前が、急に訪ねてくる位だ、急ぎの要件なんだろう?何だ?」 

「うん、単刀直入に言うよ。いま交際してる女性との結婚を認めて欲しい」

父の顔が、明らかに曇る。

「相手の女性は?仕事は?ご両親は?」

「そんなに世間体が、大事?」

僕は、鼻から息を吐き出した。

「当たり前だろう。お前は、橘家の一人息子だ。それ相応のお嬢さんでなければ、認められないな」

「代々医者の家系の橘家で、唯一、医者じゃないのが、僕だよね。落ちこぼれの息子の相手なんて、今更拘る必要ないでしょ?」

「友也っ……なぜ医学部を中退した?お前の成績なら、問題なく医者になり、この病院だって、お前が継げたんだぞ!今からでも遅くない……医学部に入り直しなさい。お相手のお嬢さんも医療機器メーカーの営業マンと結婚するより、医師との結婚の方がずっと安泰だろう」

「ふっ……そう言うと思ったよ。父さんは、結局、この病院が何より大事だからね。でも、医学部に入り直すの考えてもいいよ」

父が、目を見開くと、すぐに前のめりになる。
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