壊れるほどに愛さないで
「本当か?なら、今週中にでも、中退時の成績を元に知り合いの教授に試験を、受けられないか確認しておく。いいな?」

僕は、下唇を湿らせた。

「でも一つだけ、条件がある。来月にでも、その女性と籍を入れたい。その代わりに、必ず医師免許を取るよ。どう?」

医師免許という餌をぶら下げれば、父は、必ず食いついてくる。僕は、自信があった。

父は、眉間に皺を寄せながらも大きく頷いた。

「いいだろう。ちなみに、そのお相手のお嬢さんの名前は?」

「父さんも知ってる(ひと)だよ……」

「え?誰だ?」

「……葉山美織さん。僕の恋人だよ。3年前から交際してる」

「なっ……」

父が、青ざめると、声を失った。

「てことで、近くプロポーズして、籍を入れるから。試験の日決まったら教えて。勉強しておく」

僕は、ソファーから立ち上がる。

「……待ちなさい、友也……お前、知って……」

父の唇が、僅かに震えているのが分かる。

「うん……ごめん。父さんのパソコン見たから……知ってるよ。全部ね」

「お前、その事……葉山さんは……」

「言う必要ないでしょ?僕らは、愛し合ってるんだから。じゃあ、また」

僕は、ガラステーブルを見つめたままの父をそのままに、静かに院長室を後にした。

美織には言う必要なんてない。もう、僕の心も心臓も全部美織のものだから。
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