壊れるほどに愛さないで
「……早く……どうにか……」 

桃葉の声が、途切れ途切れに聞こえてくる。

(男に何かを頼んでる?)

「……って……ちゃんと……から……分かってる……」

(分かってる?何を?)

「もう……二人で……これきりでお願いします」

「あぁ……その方……いいよ……互い……に……」


俺は、その時身体が、ビクンと震えた。

スラックスの中のスマホが、震えたからだ。会議室の中から足音が聞こえてきて、俺は、慌てて隣の会議室へと入り座り込んだ。二つの足音は、すぐに遠ざかって聞こえなくなった。

耳を澄ませたまま、スマホを取り出すと、ラインメッセージは、美織からだった。

『医局前着いたよ、雪斗どこ?』

俺は、慌てて、医局へと早足で向かうと、医局前で美織が、封筒を大事そうに抱えて不安そうにしている。美織を見つけた俺は、すぐに駆け寄った。

「美織、ごめんな」

「あ、雪斗!良かった……医局に来るのに迷っちゃって……ごめんね……」 

「いや、さっき医局覗いたら、まだ、野田先生は、席外してたから大丈夫だと思う」

俺は、美織から封筒を受け取ると、頭をくしゃっと撫でた。

「おつかいありがとな、また飯奢るから」

「えっ、私のミスなのに」

「俺が、美織と飯食べたいだけ」

美織が、困った顔をしながらも、頬を染めた。


「あ!雪斗ーっ」

突如聞こえてきた、甘ったるい声と共に、俺は、後ろから、ふいに抱きつかれた。
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