壊れるほどに愛さないで
「こんなとこで会えるなんてね。今日また、家行っていいでしょ?恋人同士なんだし」

(何だって?恋人同士?)

一瞬言葉が出ない。

美織が、居るからか?俺が、美織の髪を撫でてたところを見たのか?俺は、思わず眉間に皺が寄っていた。美織のいる前では、できたら桃葉と会いたくもなければ、話したくなかった。

「ねぇ、雪斗、今夜何時に行けばいい?」

「悪いけど……無理だから」

「じゃあ、今度の展覧会一緒に行こ、雪斗の写真見たいの」

「ごめん、先約あるから。ちょ、離して」

そう言って、俺が、桃葉の腕を引き離そうとしている間に、美織は、すでに俺に背を向けて歩き出している。

「美織っ」

追いかけようとした俺を、桃葉が、ぐいと引き寄せた。

「ちょ、桃葉!離せよ!一体、どう言うつもりだよ!」

「雪斗だってらしくない!あの女にあんな顔するなんて」

「あんな……女?それ、どう言う意味だよ?」 

桃葉を睨み落とすと、桃葉の視線が、左右に揺れる。

「別にっ……何処にでもいるような女に、雪斗が美野里さんに向けるような笑顔を向けるなんて、らしくないって言ってんのよ!じゃあね」

桃葉は、俺から、するりと手を離すと、エレベーターに乗り込んでいく。

(何だ?今の美織に対して挑戦的な行動に、さっきの桃葉と男の会話……桃葉もあの手紙と写真に関係してるのか?)

「待野君、ごめん、待たせたね」

声の方へ振り返れば、白衣を靡かせた野田医師が、にこやかな微笑みを浮かべていた。
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