壊れるほどに愛さないで
第5章 美野里のストーカー
規則的に揺れる電車に身を委ねながら、私は、雪斗と桃葉のことが頭を離れない。

今朝、雪斗が、得意先から電話がかかってきたからと、私の部屋を先に出て行ったが、私が、階段を降りていった際、雪斗が話していた相手は、桃葉という名前だった。

あの時は、『ももは』という変わった名前の女性を思い出せなかったが、以前、定期検診のお会計の時にぶつかった女性職員が、彼女だった。

「雪斗の……恋人……」

雪斗にくっつく姿も会話も親しげで、目鼻立ちのハッキリした愛くるしい顔立ちの女だった。お似合いだな、そう思った。

雪斗に恋人が居たっておかしくない。それに雪斗が誰と付き合おうと、私には何も言えないし、言う権利なんてない。だって、そもそも私には、友也という恋人がいるのだから。

(なんて嫌な自分なんだろう……)

それなのに、雪斗が他の女の子と話す姿を見るだけで嫉妬してしまう。雪斗の瞳が、他の女の子を映すだけで、らやめてと叫びたくなる。

私は、コートのポケットから、スマホを取り出すと、雪斗が送ってくれた、私とコスモスの写真をじっと眺めた。恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうな笑顔の私が、白いコスモスと共に写っている。

(花言葉は、純潔……)

雪斗の恋人の美野里さんにピッタリの花だと思う。こんな素敵な人を好きだった雪斗には、私なんかじゃ不似合いだ。

それなのに、どこかで、雪斗の言葉と瞳と温もり全てを自分に向けて欲しくて、雪斗の全てを欲してた自分がいた事に気づく。

馬鹿みたいだ……雪斗は、ただ寂しかっただけなのかもしれない。それが、たまたま、友也との間に隙間ができた私と出会い、雰囲気が似ている私を好きだと錯覚してるだけで、きっと本気な訳じゃない。

そうでも思わないと、呼吸が、できなくなりそうだ。
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