壊れるほどに愛さないで
私は、友也の自宅扉の前で、スノードロップのキーホルダーを眺めた。何度ここへ来たかのか分からない位、通っていたのに、今この扉を開くのが怖くてどうしようもない。

掌の中のスノードロップは、何故だか泣いているように見える。まるで、涙の結晶みたいだ。

(友也……)

私は、一呼吸してから、鍵穴を回し、ゆっくり扉を開く。すぐに友也が、寝室から駆け寄って来るのが見えた。

「……美織」

友也は、酷く疲れた顔をしていて、昨日から、ほとんど眠れていないのかも知れないなと思った。

「……お邪魔……します」

「うん……コーヒー淹れてるから……」

私が、靴を脱ぎ、ダイニングテーブルの椅子に座ると同時に、友也が、マグカップを二つかかえて、私の目の前に座った。

「良かったら……飲んで。外寒かったと思うから」

私は、小さく頷くと、冷えた掌を温めるようにマグカップに両手を添えた。

チェストの上の二人で撮った写真に目を向ける。目の前の友也は、こんなに近いのに、二人の間に流れる沈黙が、私達の心の距離が、随分遠くなってしまった事を嫌でも感じさせる。

「……昨日は……本当にごめん……あんな事をして……本当に……」

友也が、テーブルに頭をつける。友也が、私に謝罪する姿なんて、初めて見る。

どうしてこんな風になっちゃったんだろう。
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