壊れるほどに愛さないで
美野里が、ストーカーに遭っていた事を知っていたのに。何度も怖がって、泣いていた事を俺は知っていたのに。

「守ってやれなくて……ごめんな」 


ーーーー美野里は、自宅から駅に向かう途中、何者かに刺されて死んだ。


「俺の……せいだ」

俺は、唇を噛み締めた。何年経っても、どんなに時が流れても、俺の後悔は、心の中から消えてはいかない。シミになって、黒ずんで、いつまでも、俺の心を蝕み続けてる。

「美織……」

美野里の笑顔に、美織の笑顔が重なる。

野田医師から、はっきりと美野里の心臓移植の相手が、美織だと言われた訳じゃない。それでも、俺には確信がある。

初めて会った美織に、なぜ惹かれたのか。何故、心が、こんなにも美織を求めるのか。


ーーーーピンポーン


ふいに鳴ったインターホンに、俺は、慌てて玄関扉へと向かった。
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