壊れるほどに愛さないで
僕は、美織が居なくなった部屋に一人戻ってきた。頭がうまく働かない。

「美織……」

あんな風に怯えて、僕を拒絶する美織は、初めて見た。美織は、アイツからどこまで聞いているんだろうか。

美織の反応から見て、少なくとも、美野里が、僕の高校の時の恋人じゃない事を、美織は、知っていたという事だ。

「そうだよ、待野雪斗は、美野里の恋人だった……でもアイツのせいで美野里は、死んだんだ……アイツのせいで……許さない」

美織が、どこまで知っているのか分からない。

けれど、美織にだけは、本当の事を、僕の秘密を正しく説明したい。

かき集めた写真の中の美野里を見つめれば、あの日のことが蘇ってきそうだ。

『ともくん、私……』

『お願いだから!僕を見てよ!』

あの時、掴んだ美野里の手首の細さも、無理やり抱きしめた身体の温もりも、強引に奪った柔らかい唇も、あっという間に蘇る。

「美織……愛してる」

僕は、拾い集めた写真をデスクの1番上の引き出しにしまうと、僕は、スラックスのポケットから手紙を取り出した。

久しぶりに開いてみれば、見慣れた筆跡で書かれた文字と、ピラミッド型のモニュメントが、描かれている。

僕は、何度も目でなぞると、愛おしい人を思い浮かべながら、体をベッドに沈み込ませた。
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