壊れるほどに愛さないで
「……友也のストーカーのせいで……美野里さん……」

「そんな顔しないで。少なくとも……美織のせいじゃない」

雪斗が、悲しそうに呟く。

そして、私は、ずっと気になっていた事を言葉に吐き出した。

「雪斗……美野里さんは……どうして亡くなったの……?」

聞かれたくないことだったんだろう。分かっていて雪斗に訊ねたが、雪斗は、眉間に皺を、寄せて難しい顔をした。

「それは……美織は知らない方がいいから……」

「どうして?だって、友也のせいでっ」

雪斗が、宥めるようにそっと、私の頬を両手で触れた。

「まだ、分からないから……それだけじゃ、橘友也が、美野里を殺した犯人かどうかは、分からない。証拠にはならないから」

一瞬言葉を失っていた。雪斗の口から出た、『殺した犯人』という言葉が、ナイフのように心に突き刺さる。

それは、美織さんは、事故でも自死でもなく、誰かに殺されたと言うこと。


ーーーー友也に……殺された?


「……ひっく……ふ……」

痛い。誰かに心臓を絞られたみたいに、痛くなる。怖い。誰かに心臓ごと攫われてしまいそうで。

「泣かないで……美織に泣かれると、どうしたらいいのか分かんなくなるから……」

雪斗は、私の瞳から流れだす水分を親指で拭うと、ゆっくりと、私の唇に唇を重ねた。

雪斗の唇は、何故だかいつも涙の味がするのはどうしてだろう。それなのに、ずっとこうしていたくて、離れたくなくて、心の水槽は、すぐに涙で(あふ)れていく。


「何してるのっ!離れて!」
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