壊れるほどに愛さないで
突如響いた高い声に、私達が振り返ると、桃葉が、私の腕をあっという間に掴み上げた。
「きゃっ……痛っ……」
「ちょっとアンタ、何なの、出てってよ!雪斗に構わないで!」
いつの間に入って来たのだろうか。
桃葉の愛らしい顔立ちは、私への嫉妬からだろうか?険しく歪んでいる。
「やめろ、桃葉っ!お前また勝手に入ってきたのかよ!」
雪斗が、桃葉の手を私から引き剥がすと、凄むような声を出した。
「桃葉、いい加減にしろよっ」
「何で?いつもはそんな事言わないじゃない!この間だって抱いてくれたじゃない!」
桃葉の言葉に、私は、すぐに耳を塞ぎたくなる。雪斗は桃葉は恋人ではないと話してくれたが、身体の関係は、あったという事だ。
「ごめん……もう桃葉とは会わないから」
「何で?何で急にそんな態度取るの?」
「悪いけど、今彼女来てるから」
雪斗が、桃葉の手首を掴むと、玄関先へと引き摺るように連れて行く。
「痛いっ!離して!」
雪斗は、玄関先で、桃葉の履いて来た靴を持ち上げると突き返した。
「もう帰れ」
「嫌よ!雪斗から離れない!」
雪斗が、床に視線を落とすと溜息を吐き出した。
「ごめん。桃葉、前から言おうと思ってた。俺は、もう桃葉とは会えない。桃葉の気持ちに応えてやれないのに、中途半端な関係続けてて…甘えてばっかでごめん。でも、今はもう……俺は、美織のことしか考えられないから」
雪斗は、桃葉に深く頭を下げた。
(雪斗……)