壊れるほどに愛さないで
「眠ったな……」

俺は、美織の髪を漉きながら、長い睫毛が閉じられたのを確認してから、起き上がった。

美織は、疲れてたんだろう。一緒にチャーハンを食べて、シャワーを浴びると、俺にくっついてすぐに眠ってしまった。

「ブカブカだな」

美織に俺のスウェットを貸したが、小柄で華奢な美織は、手足の裾を三重に折り曲げている。



『もう、雪斗の手足ながすぎっ』

窓辺から差し込む月明かりと一緒に、美野里の声が、聞こえてくる。

「まさか……美野里が……」  

俺は、美織の胸元にそっと掌を添えた。僅かに掌から感じる鼓動に美野里との思い出が、(あふ)れてきそうだ。

「俺は……美野里の心臓を美織が、持ってるから、惹かれるのか?」

今まで、何故美織にこんなに惹かれるのか理由が分からなかった。こんな偶然があってもいいのだろうか。まさか美野里が、ドナーとして心臓を提供していたなんて、さらには、その心臓が、美織に移植されてたなんて、誰が想像できただろうか。


「だから美織に惹かれてる?……この気持ちは本当に、それだけか……?」

美野里の心臓が、美織の中で生きているとして、でも、美織は、美野里じゃない。

俺の中の膨らんだ想いは、美野里に向けていたモノと美織とでは、外見はよく似ていても、根っこは全くの別物だと思う。

言葉ではうまく説明出来ないが、もっと何か心臓の偶然だけじゃない、強い運命のようなものを感じるのは気のせいだろうか。

俺は、美織の白く柔らかい頬に触れる。
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