壊れるほどに愛さないで

「此処だよ」

雪斗に連れられて、最寄りの駅から電車に揺られて1時間、私達は、雪斗の通っていた大学に到着した。

雪斗が、警備員に、30期生という事と、写真の展覧会に来た旨を伝えると、すぐに重厚な門扉は開かれた。松原大学と彫られた石柱を眺めながら、私は、雪斗と共に門をくぐり抜けていく。

「カトリック系の大学なんだね」

広いキャンパスに入ってすぐの左手の建物を見れば、てっぺんに十字架を掲げた、丸いステンドグラスの窓が、特徴的な教会が、佇んでいる。

「そ。俺は無宗教だったから、必修の聖書の授業よくサボってた」

「雪斗らしいね」

「サボりが、俺らしい?」

言いながら、雪斗が、ケタケタ笑った。

「あ、美織、あそこの花壇見て」

教会のすぐ側には、マリア像が建てられており、その周りを囲むようにレンガ造りの花壇がある。

見れば色とりどりパンジーが、仲良く並んで咲っているようだ。

「パンジー綺麗だね」

パンジーの花言葉は、『僕を想って』だ。友也から、告白された時の言葉を思い出す。あの日からずっとわたしの隣にいた友也は、もう居ない。その事実にやっぱり胸は、苦しくなる。

「美織?大丈夫?」

「あ、うん……大丈夫」

「パンジーも綺麗だけど、美織に見せたいのは、こっち」

雪斗が、花壇の前にしゃがみ込むと、パンジーの隣を指差した。

そこには、黄緑色の新芽が、ちょこんと伸びている。
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