壊れるほどに愛さないで
「ん?何の新芽?」

スイセンにも似ているが、時期的にスイセンではない。

「スノードロップ」

「え?」

「スノードロップってさ、雪の飴玉みたいな名前だよな」

一瞬、雪斗に見惚れる。 
 
(まただ……)

目の前の雪斗が、あの雪の日に出会ったスノードロップの男の子に一瞬重なるのは、何故だろう?
 
「美織?どした?」

「あ、私……スノードロップが好きで、でも、見たのがもっと、寒い日だったから、スノードロップと言えば、雪景色に咲くイメージしかなかったの。新芽を見たのは初めて」

雪斗の隣に並んで見つめたスノードロップの新芽は、瑞々しい翠色で、自然の命の鼓動が、伝わってくる。

「スノードロップってさ、名前だけ聞くと食べれそうだろ?スノードロップは、聖書に由来してて、禁断の身を食べたアダムとイヴを慰めるために、天使が雪を白い花に変えたらしい」

「それが、スノードロップ?」

「そ。詳しいだろ?時々単位の為にちゃんとサボらず講義受けてたからな、俺」

クスクスと笑った私を見ながら、雪斗が、そっと新芽に触れる。

「だからさ……元が、雪なら食べれるのかもな」
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