壊れるほどに愛さないで
僕は、玄関から出て行こうとする彼女の手首をもう一度強く掴んだ。今、美野里を行かせたら、もう二度と、会えない、何故だかそんな気がしたから。

『美野里、お願い、行かないで……好きなんだ……』

もう一度、僕は、美織の目を真っ直ぐに見つめて、そう口にした。

『……ごめん。ともくんの事、弟にしか見えないからっ!』

バタンと、乱雑に閉められた扉を見つめながら、僕は、もう一度美野里の名前を口にする。

『美野里……』

僕の声と想いは、どうやっても届きはしない。
分かってる。分かってた筈なのに。どうしようもなく、美野里に恋焦がれていた。

『美野里、好きだよ……』

これが、僕と美野里の最後の会話になるなんて、想像もできなかった。

この夜を最後に僕は、二度と美野里に会えなくなった。話すことも、綺麗な黒髪を揺らしながら笑う顔も、怒った顔も、泣き顔も、もう二度と見れなくなった。

勿論、好きだよも、愛してると伝えることも、二度となかった。

ーーーー美野里は、殺されたから。
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