壊れるほどに愛さないで
「ど……して、その手紙…………」

震えた指先で、友也から手紙を受け取ると、私は、すぐに中身を取り出して広げた。

送り主も宛名も無記名だが、その手紙の筆跡は、間違いなく自分のものだ。何度も何度も書き直して、ようやく、この手紙を四年前に送った事を記憶の箱から、引き摺り出す。手紙の片隅には、心臓移植後入り浸っていた、大学の図書館から、いつも見ていたピラミッド型のモニュメントが、手書きで描かれている。間違えるはずない。


これはーーーードナーのご家族に宛てた自分の手紙だ。


「何で……友也が……持って……」

全てが、繋がる。

バラバラだった点と点が繋がって、解けなかった疑問は、確信と真実となり、容赦なく私に突きつけられる。

「ごめん、美織……こんな思いさせたくなかった。だから言えなかったんだ……」

「……私の……心臓の……提供者は……美野里さんだったんだね」

目の前から、藍色の海に沈んでいく。瞳から溢れた涙の粒に、心が溺れていく。

「美野里は……駅に行く途中、何者かに刺されて……たまたま通りがかった人が、救急車を呼んでくれて、父の病院に運ばれた。父さん……も、手を尽くしてくれて……何とか命を取り留めたんだ……でも、脳の機能が回復しなかった」

友也が、何度も私の涙をそっと、親指で掬ってくれる。

「泣かないで……美織……泣かせてごめん……」

「友也っ……ひっく……美野里さん……意識が……」

「そう、脳死だよ」

友也から吐き出された言葉に、目の前から、景色も色もなくなっていく。
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