壊れるほどに愛さないで
「美野里の財布から……臓器提供カードが出てきて、悩んだ末、僕と父さんは、美野里の心臓を提供することを決めたんだ。執刀医は、離婚した美野里の父親に引き取られた実兄、野田雅史医師だよ……」

「私の、主治医の……野田先生……?」

「うん……そうだよ。本来、家族の執刀は、あり得ない。でも、離婚している事、僕の父との再婚を限られた人しか知らない事、夫婦別姓を名乗っていた事から、父の配慮で、美野里の兄の野田医師が、美野里の心臓を美織に移植した。勿論、野田医師も、臓器提供に賛成だった。美野里の意志を……尊重したいって」

「……ひっく……友也……」

友也が、私をそっと抱きしめた。

「僕は、美野里が、居なくなって空っぽになってしまった……自分を、責めて、後悔を繰り返して、生きる意味も分からなくて、ただ毎日が苦痛で……そんな時、美織からこの手紙が届いたんだ。この手紙を読んで……一度だけでいい。美野里の心臓を持っている子に会ってみたいって思ったんだ。本当は、遠くから、一目見るだけのつもりだったのに……見れば、今度は、一度でいいから話したくなって、一度話せば、美織にもっと僕を知って欲しくて、気づけば恋をしてた……」

私は、友也の背中に手を回した。

「だから……私だったんだね……ごめんね……ひっく……友也……私のせいで……美野里さんが」

美野里の心臓のおかげで、私は、間違いなく現在(いま)を生きている。でも、それと同時に、美野里の死を引き換えにした。もし臓器提供をしない選択をしていたならば、美野里の意識は戻らなくとも、この世にきっと、美野里は、生きていた。
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