壊れるほどに愛さないで
ーーーー「もしもし、美織?」

美織から、すぐに返事はない。俺は、スマホの液晶画面をもう一度確認する。間違いなく、通話中だ。

「美織?」

『……もしもし、橘友也です』 

思わず、一瞬で眉に皺が寄る。美織は、橘友也に拉致されたのか?

「なっ……美織に何したっ!美織は?!美織に何かしたら、俺はお前に何するかわからない!」

身体中の血液が、一気に逆流するのが分かった。電話の向こうからは、橘友也以外の声は、聞こえない。

『……さっき、ストーカーに美織が、襲われた。意味分かるよね?』

「は?何言って……」

『僕は、ずっと美織が心配で美織の行き帰り、見張ってたんだ……今日も美織のマンション前で美織を待とうと思って駅から向かってたら、美織が男に攫われそうになってた。声は、ヘリウムガスで変えられていて、黒いパーカーのフードをかぶった、黒サングラス、黒マスク、で顔は分からない。連れ込まれそうになった車のナンバープレートも、塗り潰されてて分からなかった』  

一瞬呼吸が、止まる。

この間の展覧会の帰りに美織の家の前で感じた視線は、橘友也だったということなのだろうか?

『聞いてる?』

電話口は、相変わらず静かだ。

「そんな話……信用すると思うか?」

そもそも橘友也は、本当の事を話しているのだろうか?それとも真っ赤な嘘で、美織は橘友也にまた乱暴されて、監禁でもされてるんじゃないだろうか?
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