壊れるほどに愛さないで
第7章 迫り来る影と守りたい人
「んっ……」

目を開ければ、いつもの自分の部屋の天井が、見える。目の前には、見慣れた寝顔が、私を包み込むようにして抱き抱えたまま、静かな呼吸を繰り返していた。

起きあがろうとすると、友也が、目を覚まし、すぐに私の背中を支えた。

「あ……友也ごめんなさい……起こしちゃったね」

「ううん、目覚ましかけるの忘れてたから……出勤ギリギリになるとこだった。ありがとう」

部屋の時計は、まだ6時だ。

友也は、起き上がると、すぐに、お風呂にお湯を溜めながら、エプロンを身につけ、キッチンで、お鍋を火にかけた。 

「あ、友也、私作るよ、簡単なものだけど」

友也は、私の頬に触れると、すぐに悲しそうな顔をする。

「痛くない?」 

男に引っ叩かれた唇の端は少し傷にはなっているが、激しく痛む訳でもない。

激しく痛むのは、心のほうだ。

ずっと友也を疑って、裏切って、それなのに、友也は、私を責めるどころか、こんなに優しく、私の側にいてくれる。

「痛くないよ……友也、ごめんね」

無意識に溢れた涙を、友也が、指先で掬い取った。

「もう泣かなくていいから、罪悪感も持たなくていい。僕の側に居てくれたら、もうそれだけでいいんだ。お湯溜まったら、お風呂入っておいで。美織の好きな卵焼きと野菜スープ作っておくから」

友也は、私を安心させるように、にこりと微笑むと、昨日から着たままのワイシャツの袖を捲り、冷蔵庫から、余り物の野菜を取り出して、すぐに刻み始めた。
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