壊れるほどに愛さないで
(此処は……どこなの?)

瞳を開ければ長机が中央を空けるようにして左右に並んでいて、更に視線を上げれば十字架が見えた。

(私……眠って……?あと、この場所は……)

頭が、ぐわんと回って口元から消毒液のような匂いがする。上手く頭が回らない。

視線を流せば、奥に見えるステンドグラスを通して月明かりが差し込み、部屋の暗闇を仄かなベージュの光が冷たい大理石の床を覆っている。

「教、会……?」

左耳に冷たい床の温度を感じるととも、私は手足が拘束されていることにようやく気づく。慌てて手足をバタつかせながら、自分自身に視線を下げれば、木製椅子に座らされた状態で両手を後ろ手に縛られ、両足首も紐で固定されている。

「起きたかな?」

真後ろから聞こえた声に、体がビクンと跳ね上がった。白いスニーカーが私の足元から、ゆっくりと顔の前まで歩いてくると男がしゃがみ込む。

「きゃっ……」

その姿に、私は小さな悲鳴と共に椅子の背もたれへとのけぞった。

赤髪の男はサングラスと黒いマスクをつけたまま、私の怯えた顔を見ながら薄く笑っている。

「クククッ……だーれだ?」

「え……?」

思考が混乱する。目の前の男は確かに私を連れ去ろうとした犯人の姿そのものなのに、声だけは私の想像していた声と違う。
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