壊れるほどに愛さないで
『なぁ、スノードロップってしってる?』

『なぁに?それ、おいしいの?』

確か、私はそう言った気がする。

男の子は切長の瞳を細めてケタケタ笑うと、
『このはなの、なまえだよ』
と教えてくれた。

(スノードロップ……) 

『たしかに、ゆきでできたドロップみたいだよな』

その時、私を見ながら無邪気に笑った顔に、心臓がとくんと鳴った。

そのあと、数日、私が祖母の家にいる間、時間を見つけては、その男の子と湖で待ち合わせて遊んだ。

雪景色も、雪だるまも、スノードロップも都会育ちの私には珍しいモノばかりで、真っ白な世界は、何もかもが新鮮だったのを覚えている。

その日も雪の中で二人して頬を赤らめながら、雪玉を投げ合って遊んでいた時だった。ふいに胸が苦しくなる。

『ケホケホッ』

しゃがみ込んだ私を、男の子が慌てて駆け寄ると、心配そうに覗き込む。私は、生まれつき心臓が弱く、時々、こうして発作を起こすことがあった。

『だいじょうぶ?くるしいのか?』

こくんと頷くしかできない私を、男の子はそっと抱き寄せるの、背中をトントンとしながら、頭を撫でた。

『だいじょうぶ、これ、しんだおれのかあさんがやってくれたんだ。すぐなおるから』

不思議だった。大丈夫の言葉と、男の子の心臓の音ですごく安心して、いつの間にか発作は収まっていた。

『ありがとう』

私は、男の子の切長の瞳を見つめながらお礼を言った。男の子は、頭を掻くと、ニッと笑って、私も思わず笑っていた。
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