恋の神様がくれた飴



強引さと裏腹なキスに強張っていた身体の力がふわりと抜けた


「素直じゃないですね、えりさんは」


唇を離した土居は私の手を引いてエレベーターの中に戻った

視線を感じる耳まで赤くした自分が歯痒い


「えりさん小さいですね」


土居が首を傾けて顔を覗き込む


「土居が大きいからでしょ」


視線を合わせるのが恥ずかしくて目が泳ぐ

今朝までただの部下だった土居に
一日、いや、たった半日で
気持ちを浚われた


「眠いんでしょ」


ニッコリ笑う顔が可愛くて
つられて笑ってしまった

「やっと笑った」

反対の手で頭をポンポンと撫でられると不思議と落ち着いてきた

部屋に戻るとお茶のカップを持たされた


「ほら冷めちゃうでしょ
飲んだら送りますから、もう飛び出さないで下さいね」


すっかり土居のペース
でも、それが心地良くて・・・眠い

別れた彼とはこんな風にもならなかった

「あのさ。この前別れた彼氏のことなんだけど・・・」

どうしてその話をしようと思ったのか
自分でもよくわからないけれど

一人芝居だった元カレの話を
ポツリ、ポツリと話す私を土居は
頷いたり、時折怒ったりしながら聞いてくれた

「えりさんが振られて良かった」

最後まで聞いた感想に動きが止まった


「・・・ん?」


「その彼氏さんが振ってくれたお陰で僕の恋愛が成就するわけですよ」


またもニッコリと笑う土居は本当憎めない


「恋愛成就って。おみくじみたいなこと言って」


「ハハ、さぁ送ります」


八重歯がチラリと見える口元と少し垂れ目の可愛い顔は緩いウェーブの髪がよく似合っている


・・・そういえば、みよが言ってた

“土居さんてジャニーズ系だよね”


その言葉がピッタリだと思う


「これ以上遅くなると・・社長に叱られちゃいますね」


ペロッと舌を出すところなんて
まだまだ学生みたいだ


「そうだね。しっかり働いてもらわなきゃ」


土居のカップもサッと洗うと
隣に立った土居が布巾で拭いて棚に片付けた

マンションを出て駐車場に着くと


「僕の車で送りますよ、えりさん車置いてて大丈夫でしょ?」


「ううん、大丈夫だよ」


そう言ってバッグの中の鍵ををゴソゴソ探す手を押さえられた


「モォォォ、あのね、えりさん
僕が送って行くってことは・・・
明日、車を取りに来るためにまた僕がえりさんを迎えに行って。休日に会う口実が出来るってことなんですけど・・・」


眉を下げた土居の言葉の意味がようやく理解できた


「・・・だったらそう言ってよ
全然分かんないんだから」


そう言ったのは本当の気持ち
夜道を心配して送ってくれるのだと思ったから自分で帰れると思った


「はいはい恋愛初心者なんでしょ
全部言葉にするようにしますね」







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