恋の神様がくれた飴



「・・・・・・ねぇ」


チラッと運転する土居を見ると
運転しているからか


「どうかしましたか?」


素っ気ない返事が返って来た


「・・・ううん、なんでもない」


ハンドバッグの持ち手をギュッと握った


力を入れた両手の上に土居の手が重なる

驚いて顔を見ると


「車を止めたら話しますから
少し待っていてくださいね」


後回しにした言葉を読まれた


「・・・うん」


素直に答えたのは
土居の手がとても温かかったから・・・


しばらく車で走って着いた場所は県民ホールだった


「・・・なんで?」


連れて来られた意味を探るように土居を見上げる


「サァ、行きましょう」


答えて貰えないまま笑顔で差し出された手を躊躇いがちに握った


朝は何の予定も入っていないのか
シンとした建物内に二人の靴音が響く

土居は大きなイベントホールの扉を開けると隅にあったベンチに腰掛けた


「えりさん覚えてますか?」


「・・・ん?」


「此処で開催された企業説明会です」


「あ〜、そうだったね」


「それがキッカケで僕はNEXTOPに入ったんです」


「そっか。二年前だっけ
なんだか懐かしいね」


「リクルートスーツ姿の学生達の中に、僕が居たことを覚えてますか?」


「え~、覚えてないかも」


「酷いえりさん」


「だって、二日間で凄い数の学生が来たんだよ」


「ですよね。地元企業の中でも
人気があったから仕方ないですよね」


「で、それがどうしたの?」


そのことと、私との付き合いとが
繋がりがあるとは思えなかった


「えりさんは凄い熱気の中
頬を赤くしながら、 学生達の質問に一つ一つ丁寧に答えていて
一生懸命な姿がとても印象的でした」


「・・・そっか」


「今、思うと・・・あの時から
えりさんのことが気になってたんだと思います」


「・・・え」


驚きすぎて思考が鈍くなる
そこを攻めるように土居が口を開いた


「僕はえりさんのことが好きです
周りに気配りは出来るのに、自分のことには凄い鈍感なところと
僕が沢山誉めても誘っても全然本気にしないところとか
四歳しか違わないのに、いつも“四歳も年下のくせに”って意地悪しか言わないところも
全部、全部大好きです」


「えっと、ディスられてる?」


「そんな訳ないでしょ
全く恋愛対象として見てもらえないから強引な手段を使ってみました」


「知らなかったの、だって」


「四歳も年下ですからね」


「「ブッ」」
顔を見合わせて吹き出した


・・・四歳も年下
・・・四歳しか違わない

四歳の差が言い回しで随分違って聞こえる


「突然好きにはなれないよ?
もう二十七歳になるんだし」


これは素直な感情だ


「でも。僕のこと気になるでしょ」


「・・・それは」確かに気になる


「ほら、付き合ってみたら
案外好きかもしれませんよ?」


「・・・うん」


「改めて言います
山下えりさん僕と付き合って下さい」


今度は真面目な顔で視線を合わせた土居は、右手を差し出した


“女の子は想われた方が幸せよ!”

思い出したのは母の言葉だった


一人芝居だった元カレしか知らない私
切ない恋を忘れるには新しい恋?


思い悩む私を


「えりさん返事は?」


現実に呼び戻す土居の瞳は
不安からかユラユラと揺れている

その不安を取り除いてあげたいと思うあたり
私も土居のことが気になっていたのかもしれない


「うん。付き合ってみる」


「良かった」


引き寄せられた身体は
土居の腕の中に収まった

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