恋の神様がくれた飴
「男の僕が可愛いって言ってるんだから自信持って下さい」
「・・・・・・なっ」
更に続く土居の言葉に
言い返そうとした口は開かなかった
次から次へとどうしてこんな言葉が出てくるのか
元カレしか知らない私には免疫不足気味
明るく社交的なみよと違って
私は少し時間の掛かるつきあい方をする
言いたいことや聞きたいことを我慢して相手に同調するのも癖
でも、土居は部下で年下だからか
恋愛に発展しないと決めているからか
意外にもよく話せた
マンションの立ち会いも終わり鍵を受け取り
清掃業者の手配を済ませると次の予定へ
図面の青焼きが出来上がるまでの間に
お昼ご飯を済ませようと近くの定食屋に入った
土居の話を適当に聞き流しながら
ふと窓の外に目をやる
信号待ちの人波に
見知った姿を見つけて息を飲んだ
・・・っ
止めていた息をゆっくり吐き出したのは
隣にぶら下がるように腕を組む可愛らしい女の人が見えたから
・・・もう彼女?
・・・私とは手も繋いだことないのに
苦しくなる胸は呼吸を乱し
ツンと痛くなる鼻の奥を誤魔化せず
ポロリと涙が落ちた
「えり、さん?」
向かいに座る土居の目が大きく開く
「・・・わさびが」
咄嗟に取り繕ってみたけれど
「刺身を食べてるの僕です」
誤魔化されてはくれなかった
「・・・」
少しは気を使えよと素早く涙を拭いてみれば
少し呆れたような顔をしながらも
“どうぞ”と熱いお茶を手渡してくれた
「ありがと」
そう言って窓の外に視線を戻した時には元カレの姿は消えていた
「えりさん大丈夫ですか?」
窓の外を見続ける私を放ってはくれないらしい
「大丈夫だから話かけないで」
思わず出した強い口調に自分で驚いて
「いや、ごめん違うの」
弁解しようと手振りが大きくなる
「大丈夫ならいいですよ」
土居はなんでもないことのように笑った
笑うと見える八重歯に
ドキッとしたのは気の所為