恋の神様がくれた飴


「なっ、にしてんのよっ」


離れようとしてみても
頭の後ろと背中に回された手が
動きを封じていて


「・・・ったく。素直じゃないんだから
僕みたいな男でも寄っかかって泣きたい時は役に立つでしょ?
えりさんらしく感情を表に出せる相手は案外近くに居るもんですよ」


それだけ言うと土居は手を外し
私は腕の中から解放された


少しだけ寂しいと思ったのは


多分・・・気の所為


会社に戻ってからも
気が付くと土居を目で追っていることに気が付いた

土居は時折目が合うと微笑む

私はといえば
目が合うとすぐ視線を逸らし
パソコンモニターに隠れる


何度か繰り返したあと隠れたパソコンのモニターが点滅した

[メールあり]

社内メールを開くと

[えりさん、今夜ご飯に連れて行ってください 土居]


・・・は?連れて行って?

モニターから顔を出してチラッと覗き見ると

今度は土居が視線を逸らす

もう気になって仕方がない

策略じゃないかと悩みながらも

[いいよ!
駐車場で待ってて]

送信ボタンを押す指はリズムを打つようだった





どうしてだろう


時計の秒針が意地悪するように
ゆっくり時を刻む

・・・てことは土居との食事を
楽しみにしてるの?


・・・いや違う

今日は奇行のお詫びの食事だ

私が年上で給料も多い

だから

“連れて行ってください”
そう言われたのだ
いや・・・正確に言うとメールがきたのだ

可愛くてモテるみよと違って
奥手で根暗な私は
こういう時の対処方法が浮かばない

でも今日土居は髪を切ったことを誉めて
泣いてる私を抱きしめてくれた

これは・・・もしかしてそう?

・・・いや違うか

間違っていたら恥をかくだけだ


適当にご飯を食べて帰ろう

じゃないと
同じ職場だから気不味いのは嫌だ

パソコンの右下のデジタル時計表示を見過ぎていたのか

「えり。どうした?」

背後から父に声をかけられて
驚いて立ち上がったことで机に太股を打つけた

「イタタタ」
「「大丈夫?」」

その所為で注目を浴びてしまった

慌てた私を訝しげに見る父に


「今日は外でご飯になったから母さんに伝えて」


早口でそれだけを言うと力を失くしたように椅子に座った


「あぁ、言っとく」


もう父の顔を見る余裕は残されていなかった










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