恋の神様がくれた飴


仕事が片付いたのは終業時刻を一時間過ぎたところだった


急いで帰り仕度をして会社の裏口から駐車場に出ると
土居が私の車の隣にある輪止めに座って待っていた

「えりさんお疲れ様です」

笑顔で両手を差し出された

・・・ん?なに?

「なんなの?」

その意図が分からず聞くと

「立ち上がりたいから手を引いてもらおうと思って」

くしゃっと顔を崩して笑う土居は
甘えん坊のみよを見ているようで

「子供じゃないんだから」

ポツリと吐き出すと

その手を握って引き上げようとした

それなのにスッと立ち上がった土居に思考が追いつかない

「馬鹿にしてんの?」

握った両手を離そうとしたら

「してないですよ」

引き寄せられて腕の中に収まった

「・・・ちょ、」

困るって言おうとしたのに言葉がでない
心臓が忙しなく動き始めて
止まるんじゃないかって心配になった


「シーーっ静かに。少しだけこのまま」


土居はそう言うと少しだけ身体を離して

首を傾けるとオデコにキスをした


「・・・っ」


「あっ、ごめんなさ~い」


甘えたような声で離れると
土居は何事もなかったかのように助手席に座った

耳まで真っ赤にした私は
数十センチ隣の土居をもう見られない

「何を食べる?」

フロントガラスを見たまま聞くと

「えりさん」

ふざけた返事が聞こえた

「・・・は?馬鹿じゃないの?」

次々と口から溢れて止まらない
馬鹿、アホ、マヌケ

慌てる私とは対照的に

「やっとこっちを向いてくれましたね」

土居は悪態なんて聞いてないかのように笑っている


まんまと土居のペースにハマって
私は完全に自分を見失っていた


「早く店を決めないと
車を出せないでしょ?」


ハンドルを握ったまま催促する


「じゃあファミレスで」


返ってきたのは意外な店だった


「ファミレス?」


「ダメですか?」


「みよとは色々行ってるのに
私とはファミレスなの?」


頭を巡っていたそれが口を突いて出てしまった


「・・・ん?えりさん実は妬いてます?」


身を乗り出してこちらを覗き込む土居に


「ま、さか、そんな訳ないじゃない」


慌てて否定したところで赤くなった顔は隠せそうもない


「えりさん。顔、真っ赤ですよ」


それを指摘されたところで
真っ赤な頬が膨らんだ


「・・・っ、土居が揶揄うからよ
もうやめる、車から降りて、もう行かないっ」


これじゃあどっちが年上が分からない


「じゃあ。えりさんの知ってるお店でお願いします。もうペコペコで倒れるかもしれません」

土居は私の言葉なんてスルーしたのか
シートベルトを締めると「どうぞ」と手を前方に向けた


・・・悔しい


もう気になって仕方がない
四つも年下のこいつのこと
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