恋の神様がくれた飴
「私の車・・・」
「えりさんボンヤリしてるから
僕が運転しますよ」
完全にペースが狂ったまま
また会社の裏の駐車場まで戻った
自然に手を繋がれて
私の名前がついたマンションへ向かう
好きな人って、私のこと?
さっきの言葉だけが頭の中を巡る
・・・嘘だよ、ね
そんな・・・違う
・・・騙されてるのかな
「適当に座って下さい
お茶入れますね」
声を掛けられて顔を上げると土居の部屋に着いていた
よく知った間取り
カウンターキッチンを備えたLDKと寝室
無駄な物は何もなくて部屋は綺麗だ
手持ち無沙汰で観察する私に
「勝手に見て良いですよ?」
カウンターの中から声が掛かった
間を持たせるために
「じゃあ、お宅訪問」
立ち上がってみたけれど
どこから始めて良いのか分からず
玄関まで出ると脇の洗面所の扉を開けた
「わっっ」
室内干しに干された下着に驚きバタンと扉を閉める
「あっすみません。干したままでしたね」
私の声を聞きつけてリビングルームの扉を開いたまま顔を出した土居はクスと笑った
・・・もうやめた
「えりさんって好きな物を最後に食べるタイプでしょ」
テーブルにお茶を運んだ土居が言う
「・・・そうかな、でもなんで?」
マグカップを両手で挟みながら聞くと
「本当は隣の部屋が見たかったのに
洗面所から先に見てやめたでしょ?
一番気になること後回しにするの癖かなって」
「・・・」
あまりに図星過ぎて反論を忘れた
「さっき店で好きな人の前では見栄張りたいっていったのも
オデコにキスした理由も
本当は聞きたいのに後回しにしてるんじゃないですか?」
真顔で見つめられると
その視線から逃れるように俯いてしまう
確かに聞くタイミングを測っていた
だけど・・・
見透かされると腹が立つ
「なによ!私。帰るからっ」
勢いよく立ち上がると
“はい”とハンドバッグを渡された
それを勢いよく取ると部屋を飛び出した
「ったくバカにして
明日からいっぱい苛めてやるんだから」
エレベーターに乗り込んだ途端苛立ちが口から出る
この閉鎖空間なら大丈夫
周りを気にしすぎる私にピッタリの
見つけた砦かと思った
呼吸を荒くして・・・
ゆっくりと降りるエレベーターのランプを見ていた
彼氏にフラレたせいで
もう少しで四つも下の新入社員と
間違いを起こすところだった
一階に到着して扉が開いた途端
「・・・っ」
膝に手を置き肩で息をする土居が立っていた
「お疲れ様」
すり抜けようとしたら腕を掴まれた
「ちょっ、と、離して」
振り解こうとしたのに
簡単に腕の中に閉じ込められた
顎を掴まれ瞳が合った瞬間に
唇がそっと重ねられた
「・・・っ」
驚きに目を見開いたまま
閉じていく土居の長い睫毛を見ていた
なによ
狡い