猫と髭と冬の綿毛と
軽装に着替えて、あとは寝るだけだ、と短く吐いたところへ、不意に携帯が鳴り響く。
表示された名前に動揺が隠せず、暫く見つめていた。
彼女は此方が出なければ後追いはしない、いつも日を改めて掛けて来る。
戸惑いながらも、指先がスライドしていた。
「はい……」
「お髭さん、ごめんね、今日」
いつもの挨拶もなしで、声が沈んだように聞こえる。
「別にいいよ……、俺が悪いだけだし……」
「ほんとに、ごめん……」
今にも泣き出しそうな気配が、息苦しく感じた。
そこまでして彼を護るのか、と思わず苛立つ。
「いいよ。ていうか、お前、いつまで電話してくんの?ここのところ毎日だろ」
「それの何がいけないの?」
躊躇いもなく吐かれた言葉に、軽い眩暈がして目を伏せた。
「毎日しなくてもいいだろ……、別に」
向こう側で彼女は息を止め、ただ、黙り込む。
互いに何も言えないまま、時間だけが過ぎてゆく。
耳を済ませても聞こえず、確かめたくても声が出なかった。
暫くして短い息を吸ったあと、徐に彼女が吐き出す。
「それでいいんだね、わかった……、お髭さんのばか」