猫と髭と冬の綿毛と
簡単に見抜かれた間抜けな身体で、終日の作業に取り掛かり、煙草を口にしながら、鳴らない携帯に気を傾け、大きな溜息が零れる。
多くの関係者で溢れる中、どこで気付いたのか……。
偶然にしても、見つけるとか、あいつのほうが部族じゃないか、と思わず鼻で扱う。
けれど、此方の様子や装いは報道者と同じで、彼女の勘が働いただけの話だ。
その鋭さを僅かでも此方へ向けて欲しい、と下らないことをベッドの片隅に置き、布団の中へと潜り込む。
洗い立ての寝具と柔らかな羽毛布団が、心地良い眠りを招いていた。
ゆっくりと瞬きを繰り返し、深い底を求めて身を委ねてゆく。
まるで、見計らったかのように鳴らされた携帯を手に取り、表示の名前に出ることを躊躇う。
それでも、反応した身体は止まらず、指先がスライドして、慣れた動作で耳にする。
「おつかれさま、お髭さん」
「……おつかれさま」
訊きたい事が山ほどあるのに、何一つ取り出せない。
「おでこ、大丈夫?」
「大したことねぇよ、ていうか、お前よく気づくな、視力おかしいんじゃねぇの」
この苛立ちが、どこからくるのかさえ分からない。
「普通だけど。お髭さんは、どこに居ても分かるよ」
「明らかに周りとちげぇもんな、そりゃそうだ」
意味も酌めないまま、嫌味で返したあと、いつもの気配に息を飲み込む。
「もう、切るね……。またね、お髭さん」